失声
今でも、日本が戦時中にしたことを、ただ「日本が悪い」とだけ言う人間がいますが、不公平ではないでしょうか。日本のやった良いことはおくびにも出さず、悪いことばかりを取り上げて強調するのですが、それは正しいことでしょうか。
台湾には、こうして昔を語りながら日本時代を懐かしんでいる人間がいっぱいいるのです。しかし、残念なことにそういう人たちには声が無いのです。言いたいことがあっても誰にも言えない時代が、四十年余りも続いたのです。私と兄も戦後″声″を失いましたが、私たちだけが特別ではありません。台湾人の大部分の人間が「失声」といって、声を無くしているのです。
こうして比較的自由にものが言えるようになったのは、李登輝さんが総統になってからのことですから、ほんの数年のことです。
あまりに長きに失し、今更こんなことを誰に話そうかという気持ちですし、大体言う相手もいないのです。この本を読んでくれている、あなたのような方がいてくれたら、私たちも失いかけた声を取り戻すことが出来るでしょう。