鉄橋上の汽車から落下

すると将校さんの右側で、同じように鉄棒に掴まって戸口のステップに立っていた男の人が、体を無理矢理に中に押し込んで、何とか一人分のすき間を空けてくれました。私は急いで両手で鉄棒に掴まり、ステップの上に立ちました。

「ああ、よかった」。私はほっとして、両手に持っていた二つの木綿の袋を左腕の肘に提げました。「大丈夫ですか?」、右手に立っていた将校さんが心配そうに聞き、「危ないから降りなさい。次の列車に乗った方が良い」と、また言うのです。しかし、ステップの上に乗ったままの状態がどれほど危険なものか考えが及ばなかった私は、頭を横に振って下を向き、そこから動きませんでした。

それが大変な事態に発展するとは、その時は思いもしませんでした。

駅長の発車オーライの合図の笛が鳴り、列車はゆっくりと路竹駅を離れて行きました。

最初のうちはよかったのですが、揺れもひどく、外の風をまともに受けながら立っているだけで、体力はどんどん消耗してきました。鉄棒にしがみついている手はしびれ、腕の荷物が段々と重みを増して腕に痛いほど食い込んできました。

「大丈夫ですか?」、将校さんがまた私に聞きました。しかし、私は返事をしませんでした。いや、返事が出来なかったのです。荷物の重さがどんどん腕にかかってきて、重さをこらえつつ鉄棒を握るのが精一杯で、返事をする気力がありませんでした。

将校さんがそれに気づいて「その荷物を捨てなさい、早く捨てなさい」と言いました。私は、とうとう重さにこらえ切れなくなって、荷物を提げていた左手を鉄棒から離して、荷物を捨てようと手を伸ばしました。

重さでひもが腕にくい込んでいた袋が一つ手から離れ落ち、二つ目が手から抜けた時、列車はちょうど高雄州と台南州の境を流れる二層行渓に架かった鉄橋に差しかかりました。ゴォーッと風を切って突進する列車の轟音にハッとした私は、途端に左足をステップから外してしまいました。

「あっ!」

川の上の鉄橋を突進する列車のステップに、片足で立っている自分の体から力が抜けて行くように感じました。「助けて!」と叫ぼうとしましたが、声になったかどうか分かりません。一瞬のことでしたが、長いようでもありました。ただ目の前が真っ暗になり、私は意識を失いました。


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