プレスリリース

2021.07.01

訃報:世界大会5度金メダル獲得の奥村正子選手、90歳逝去

最期まで現役アスリートとして練習に励む

世界大会5度金メダル獲得、女性で世界最高齢のベンチプレス選手

奥村正子さんは、世界大会5度金メダル獲得、女性で世界最高齢のベンチプレス選手でした。2019年5月22日、89歳で臨んだ世界ベンチプレス大会で、 70歳以上女子47キロ級で5度目の世界王者に輝きました。残念ながら、2020年の世界大会は新型コロナウイルス感染症のために中止となりましたが、次の世界大会出場を目指して、トレーニングに励む毎日だったそうです。(写真:72歳からトレーニングを開始し、60Kgを挙げたこともある奥村正子選手)

現役アスリートとしての矜恃

奥村さんが亡くなられたのは、6月。葬儀も終わられてから死去されたとの報せが伝わり、衝撃が走りました。5月から体調を崩し、すい臓がん、肺がんなどのがんが全身に回り内臓機能も悪くなってしまったのが原因とのことでした。がんのことも、体調不良のこともごく限られた方のみに知らせ、次の大会に向けてトレーニングに励み、周囲の関係者にはいつも通りに明るく接していたという奥村さん。後ろ姿を見せることなく、常に前を向いていらした奥村さんらしい生き方、逝き方に、奥村さんのアスリートとしての矜持を伝えられた思いです。(写真:2019年世界大会、多くの人の声援を受けてベンチ台に向かう奥村さん 大きく深呼吸して笑顔で試技に臨む)

東京五輪の聖火ランナーを夢見て

常に目標を掲げる奥村さんは、東京五輪では、聖火ランナーを務めることを夢見ていました。77日は、91歳の誕生日、もうあと数えるほどで始まる東京五輪の感想も、世界チャンピオンの奥村さんから伺いたかったところです。奥村さんのご冥福を心よりお祈り申し上げます。

人生なんだってできるのよ!

奥村さんの著書『『89歳、人生なんだってできるのよ! -マスターズベンチプレス世界チャンピオンが語る 人生100年時代を楽しく生きる秘訣』』では、「お年寄りやこれから年をとる人たちに元気を届けたい!」という想いでバーベルを挙げ続けている著者が実践している「健康法」や「心の持ち方」「89年の人生で得た教訓」などのイキイキと老いる秘訣が惜しみなく紹介されています。本書<まえがき>を奥村さんからのメッセージとして、ご紹介しましょう。


<まえがき>

 私が「ベンチプレス」を始めたのは、72歳の時です。普通に考えたら、とうに引退しているような年齢でした。でも、何事も始めるのに遅いってことはないんです。やればやるほど記録が伸びるのがとにかく楽しくて、今年89歳になる今まで、もう17年もバーベルを挙げ続けてきました。

 私は、83歳の時にベンチプレスの世界チャンピオン(体重47㎏以下、60歳以上の階級※)になりました。2015年の全日本選手権では50㎏を挙げて、私の階級の日本記録を樹立し、その年の世界大会では45㎏を挙げて、世界記録も打ち立てました。

 日本でも世界でも、女性では私が最高齢で、ずっと闘い続けてきました。一昨年には脳梗塞を患い、「もう選手生命も終わりか」と正直なところ思いました。直後には主人に先立たれ、何度も、もうこれ以上は無理かもしれない、闘い続ける気力も目標も湧いてこない。そんな苦しい時期を過ごしました。

 しかし、トレーニングジムの人たちや病院の先生、ご近所の皆さんなど周りの人々の支えのお蔭で、気力と体力を少しずつ取り戻し、今は一人暮らしをしていますが、元気にベンチプレスに励んでいます。2019年の5月に日本で開催される世界大会では、5つ目の金メダルと世界記録の更新を狙っています。

 私が挑んでいるベンチプレスは、パワーリフティングの一種目です。ベンチ台に仰向けに寝て、両手でバーベルを一旦胸まで下ろし、審判の合図で上に持ち挙げ、その重さを競うものです。パラリンピックの正式種目にもなっています。72歳でこのベンチプレスの魅力に取りつかれて以来、とにかくバーベルを挙げるのが楽しくて続けてきました。

 続けられた理由は、楽しいことに加えて、もう一つありました。それは、私のような年寄りが頑張っている姿を目にして、皆さんが目を輝かせて「すごいですね!」「年をとってもこんなにできるんですね!」「自分もまだやれる!」「勇気をもらいました」と言って下さったことです。私が頑張ってベンチプレスを続けることで、私と同じお年寄りの人やこれから年をとっていく人たちに、「年をとってもやれるんだ!」という希望を少しでも持ってもらえたらいいな、という想いが、年を重ねるごとに大きくなっています。この本には、そんな私の想いがたくさん詰まっています。どんな人であっても、嫌でも老いていきます。私も50歳の時に、両膝を痛めて歩けなくなったことがありました。お医者さんに病名を聞いたら、「老化です」だって(笑)。

 でも、それがきっかけで足腰の大切さが身に沁みました。そのお医者さんのアドバイスで膝の周りの筋肉を鍛え、できるだけ歩くようにしたことで両膝はよくなりました。それ以来、足腰を鍛えてきたので、今でも元気で楽しく歩くことができています。

 あの時、老化だから仕方ないね、と諦めていたら今の私はありません。私の人生は老化との闘い、自分の限界への挑戦です。でもそれは、そんなに大げさなことではなく、工夫や気持ちの持ち方次第で楽しいものにもできるんです。

「年をとるのを不安に思う必要はないのよ!」「気持ちまで年をとる必要はない!」

「人生なんとかなる!」これが私の信条です。

 この歳になって、人生を振り返ってみると、色々な場面で大切な人の「言葉」が私の生き方に大きな影響を与えてくれていたんだなと、改めて実感しています。幼少期に厳しく躾けてくれた祖父と母の言葉、ベンチプレス仲間からの励ましの言葉、お世話になった病院の先生の言葉、主人からの言葉等々。縁あった多くの人たちからの言葉が、私に力を与えてくれ、人生に彩りを添えてくれました。今度は私が、89年の人生で培ったものを言葉にのせて、皆さんにお伝えできたなら、これまでの人生の恩返しになるのではないかなと考えています。

 この本を手にしたあなたが、いつまでも元気で、「人生なんだってできるのよ!」

という明るい気持ちで、日々を楽しく過ごしてくれたら嬉しいです。


    二〇一九年四月五日                   奥村正子

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