日常的だった兵隊さんとの触れ合い

私の父はお風呂が好きで風呂桶を疎開先に持っていったのですが、それを見た兵隊さんたちがお風呂に入りたくて「喜美子ちゃん、皆さんが入った後でいいからお風呂に入らせてもらえないか、お父さんに聞いてくれないか」と言いました。

私がそのことを父に告げると、「いいよ。その代わり薪と水は自分で汲んでねと言っておいて」と言うので、兵隊さんにそう伝えると、もう喜んで、水を汲んで薪をいっぱい持って来て、お風呂を焚いていました。

お風呂に入る順番は、やはり位の高い人からでした。伍長から先に入って上等兵がしんがりです。皆、お風呂に入って気持ちがいいなと言って喜んでいました。

兵隊さんたちが、食事に来たりお風呂に入りに来たりするうちに、私ともずいぶんと親しくなりました。「喜美子ちゃん、ごめんくださーい。おじゃましまーす」と薪を持って、まるで自分の家の炊事場みたいに入って来て、大きなかまどで芋を煮て食べたりしていました。

兵隊さんたちは、大体お昼時の少し後と三時頃とお風呂に入る時に来ました。 戦争中でしたが、疎開先の田舎では毎日何の変哲もない昨日の続きで、母も、兵隊さんたちがそろそろ来るなという時間になると食事やおやつを一生懸命作っていました。

うちに来る兵隊さんたちの中に小さな人形を持っている人がいました。ある時、その人が奥の部屋に行って静かにしていたので、私が心配して行ってみると、人形を手に持って人知れず涙を流していたのです。その人形は簡単な作りで、二つの手と二つの足、まん丸いお顔にピエロみたいな赤い三角のとんがり帽を被っていました。子供だった私は訳が分からなかったので、それちょうだいと言いました。すると、「これはいけない。これは君にあげられないよ」と言われました。私は、そうか、きっと大切な物なのだろうと思い、諦めたのですが、あれはきっと内地に残してきた赤ちゃんのことを考えていたのではないかと思います。

コラム13 大東亜戦争への道(三)


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